小倉町の集家

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創業からまだ浅い新鋭の工務店が、様々な想いから画策した事業として自社施工・自己所有するための、単身者用賃貸集合住宅の新築計画である。

本プロジェクトはいわゆる収益物件であるが、クライアントは利益や利回りのみを優先した“味気ない”建物を建てることに疑問を持っていた。当然、事業として健全に収支計画が成り立つ必要はあるが、

・建主である自身が良いと思えるものを施工できる

・自社の施工力等を見せる竣工事例の実現

・設計や施工に価値を見出してくれる見込客の発掘と訴求に繋がる事例作り

といった意義を本プロジェクトに見出していた。

他方、単身者用の賃貸集合住宅について考えてみる。

住人の大多数は、数年住んだ後ライフステージの変化と共に別の居へと移り住む。

ある意味で仮住まいのような側面を持つ用途において、いかに有意義な設計とするかを思案した際、思い出と共に当時の家のこともフラッシュバックする自身の経験に思い至った。

クライアントからの要望も踏まえ、人生の通過点に住まう建物として、入居者が印象深く感じられる(=記憶に残る)空間体験を価値として持つ建物を目指した。

敷地は間口11m奥行38mと奥に細長く、また条例により規定の駐車・駐輪台数や一定以上の緑地面積の確保などが求められた。

法規制や建設コスト、施工期間、収支計画等を総合的に勘案し、全15戸、木造3階建て木三共仕様での計画となった。

建物エントランスは三層吹抜とし、そこに存在感のある意匠階段を立ち上げた。またバルコニーを含む共用部の天井は天然木で仕上げ、印象的な共用空間の創出を目指した。

内部の抜け感と外観を意識して設えたエントランス上部の連層FIX窓は、本計画のようなプログラムではあまり見られないスケール感により建物の独自性に寄与している。

建物東側は木三共のための3m空地兼緑地として計画し、レイヤー状に整えたファサードや緑地を眺めながら建物へアプローチする計画とした。

各住戸はメンテナンス性に配慮し既製品などの汎用材を用いつつ、ただ機能を詰め込むのでなく、住まい方に自由度が持てるワンルームならではの3タイプの間取りを計画した。

「将来ご縁が重なって、マイホームのご相談に来られた方が、昔この集家に住んだことある!なんて嬉々と語ってくれることがあれば冥利につきる」といったことをクライアントが語られていたことがある。

何年かの仮の住まいかもしれないが、その時の唯一無二の自分の家として、知り合いくらいには自慢ができる程度の、入居者が愛着を持てる、記憶に残る、そんな建物となっていれば私共も冥利につきる。

竣工写真:冨田英次写真事務所